私好みの新刊 2024年7月
『ウマは走る、ヒトはコケる 歩く・飛ぶ・泳ぐ生物学』本川達雄/著
中公新書 中央公論社
動物の骨の構造や筋肉の働きについてくわしく書かれているのて、中学生以上の読
み物となる。著者の本川さんは以前にも『ゾウの時間ネズミの時間』など出されてい
て興味深く読んだ記憶がある。今回は、脊椎動物の骨・筋肉の構造を細かく書いたう
えで「歩く・飛ぶ・泳ぐ」の動物行動に深く触れている。骨と筋肉とが絶妙な働きを
している。しばしば、「歩く」とはそういうことかと納得させられる。ウマやチータ
ーが早く走れるのは背骨の屈曲が功を奏している。恐竜や鳥が2本の足で進めるには
やじろべえよろしく前後のバランスを取っている。人がなんなく歩行できるのは、
「倒立振り子モデル」が効いているという。ふだんなにげなく歩いているが微妙に腰
の位置が振り子のように上下している。それには足底の形がばねの役割もになう。歳
を取りすり足になると、こういう働きが鈍るのか。
つぎに、魚から陸上生物が現れ出した経過が書かれている。初め両生類が地上に出
てきたが足はがり股(側方型姿勢)だった。それが進化して哺乳類が現れた。哺乳類
は肢を長くして〈下方型姿勢〉を取るように進化して背骨も非常に強靭になった。
「車輪」という項が出てくる。動物に車輪?と違和感があるか、これは先の『ゾウ
の時間ネズミの時間』にも出てきて興味を引き立てていた。この本にも「なぜ動物
は車輪をつかわないのか」の議論が出てくる。確かに動くのに効率はよさそうだが
路面状況などからそんなにうまい話ではない。細菌などでは回転エンジンも使って
いるとか。かわりにヒトは自転車を考案した。
続いて魚や鳥の「力学」が語られている。鳥や魚は空気や液体の「流体力学」をた
くみに使って生活している。それには強靭な筋肉が作用している。ちょっと理詰め
だがふだんの行動が見渡せる本である。 2024年2月 1,000円
『チョッキリ 草木を切って子育てをする虫』「たくさんのふしぎ」5月
藤丸篤夫/文・写真 福音館書店
「チョッキリ虫」、よく聞く虫の名である。昔から植物の葉を切る虫として親しまれ
ているが、種の名前はあいまいに使われてきた。著者の藤丸さんは付録の解説で「オト
シブミ科のオトシブミ亜科とチョッキリ亜科」に位置づけている。とにかく、小さな甲
虫類で日本でも60種もいると書かれている。その小さな虫が「たくさんの時間をかけ
て自分よりはるかに大きな葉を切ったり、噛んだり、折ったり、ねじったり、行ったり
来たりを繰り返しながら幼虫のための巻物(揺籃)作り上げていく様子は、驚きでありふ
しぎであり、感動であり・・」と藤丸さんは書いている。それぞれのチョッキリの仕業
がこの本いっぱいに紹介されている。
まず初めに、小さな穴の開いたどんぐりが出てくる。次ページには、なにやら白っぽ
いチョッキリが口吻をどんぐりの実に刺している。ハイイロチョッキリだ。どんぐりに
卵を産み込んで枝を切り落とす〈仕業〉をしている。次ページにいろんなチョッキリの
仕業が出てくる。大きさはだいたい1センチほどだが、背中の色はさまざま。さらに次
のページでは前ページに出たチョッキリが作る揺籃の写真が出る。モモチョッキリは実
に穴を開ける虫、次はミヤマイクビチョッキリ。コナラを織り込んだ細長い揺籃の写真
がみずみずしい。体長4ミリほどと言う。まず、切り口を定めて葉のふちから切り始め
幅のある葉に切り込みを入れると葉を巻く作業に入る。巻いた葉がもどらないように粘
着物質を殻に出すという。1〜2時間もかかる作業である。そして出来た揺籃の中に卵を
産みつける、小さな虫に課せられた不思議な世界が展開する。次々と10種類ほどのチョ
ッキリの仕業が美しい写真で紹介されていく。 2024年5月
810円
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