私好みの新刊 20247

 

『ウマは走る、ヒトはコケる 歩く・飛ぶ・泳ぐ生物学』本川達雄/著 

中公新書 中央公論社

 動物の骨の構造や筋肉の働きについてくわしく書かれているのて、中学生以上の読

み物となる。著者の本川さんは以前にも『ゾウの時間ネズミの時間』など出されてい

て興味深く読んだ記憶がある。今回は、脊椎動物の骨・筋肉の構造を細かく書いたう

えで「歩く・飛ぶ・泳ぐ」の動物行動に深く触れている。骨と筋肉とが絶妙な働きを

している。しばしば、「歩く」とはそういうことかと納得させられる。ウマやチータ

ーが早く走れるのは背骨の屈曲が功を奏している。恐竜や鳥が2本の足で進めるには

やじろべえよろしく前後のバランスを取っている。人がなんなく歩行できるのは、

「倒立振り子モデル」が効いているという。ふだんなにげなく歩いているが微妙に腰

の位置が振り子のように上下している。それには足底の形がばねの役割もになう。歳

を取りすり足になると、こういう働きが鈍るのか。

つぎに、魚から陸上生物が現れ出した経過が書かれている。初め両生類が地上に出

てきたが足はがり股(側方型姿勢)だった。それが進化して哺乳類が現れた。哺乳類

は肢を長くして〈下方型姿勢〉を取るように進化して背骨も非常に強靭になった。

「車輪」という項が出てくる。動物に車輪?と違和感があるか、これは先の『ゾウ

の時間ネズミの時間』にも出てきて興味を引き立てていた。この本にも「なぜ動物

は車輪をつかわないのか」の議論が出てくる。確かに動くのに効率はよさそうだが

路面状況などからそんなにうまい話ではない。細菌などでは回転エンジンも使って

いるとか。かわりにヒトは自転車を考案した。

続いて魚や鳥の「力学」が語られている。鳥や魚は空気や液体の「流体力学」をた

くみに使って生活している。それには強靭な筋肉が作用している。ちょっと理詰め

だがふだんの行動が見渡せる本である。       20242月  1,000

 

『チョッキリ 草木を切って子育てをする虫』「たくさんのふしぎ」5

藤丸篤夫/文・写真 福音館書店 

 「チョッキリ虫」、よく聞く虫の名である。昔から植物の葉を切る虫として親しまれ

ているが、種の名前はあいまいに使われてきた。著者の藤丸さんは付録の解説で「オト

シブミ科のオトシブミ亜科とチョッキリ亜科」に位置づけている。とにかく、小さな甲

虫類で日本でも60種もいると書かれている。その小さな虫が「たくさんの時間をかけ

て自分よりはるかに大きな葉を切ったり、噛んだり、折ったり、ねじったり、行ったり

来たりを繰り返しながら幼虫のための巻物(揺籃)作り上げていく様子は、驚きでありふ

しぎであり、感動であり・・」と藤丸さんは書いている。それぞれのチョッキリの仕業

がこの本いっぱいに紹介されている。

 まず初めに、小さな穴の開いたどんぐりが出てくる。次ページには、なにやら白っぽ

いチョッキリが口吻をどんぐりの実に刺している。ハイイロチョッキリだ。どんぐりに

卵を産み込んで枝を切り落とす〈仕業〉をしている。次ページにいろんなチョッキリの

仕業が出てくる。大きさはだいたい1センチほどだが、背中の色はさまざま。さらに次

のページでは前ページに出たチョッキリが作る揺籃の写真が出る。モモチョッキリは実

に穴を開ける虫、次はミヤマイクビチョッキリ。コナラを織り込んだ細長い揺籃の写真

がみずみずしい。体長4ミリほどと言う。まず、切り口を定めて葉のふちから切り始め

幅のある葉に切り込みを入れると葉を巻く作業に入る。巻いた葉がもどらないように粘

着物質を殻に出すという。12時間もかかる作業である。そして出来た揺籃の中に卵を

産みつける、小さな虫に課せられた不思議な世界が展開する。次々と10種類ほどのチョ

ッキリの仕業が美しい写真で紹介されていく。        20245  810 

 

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